南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (46)

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     感覚と霊性の観点を最重要視する思考と理解の概念は、神秘的で合成された信仰の性格を持ち、智慧と脳と分別のような分析的性格を持たないジャワ人の思考方法となっている。この合成された思考方法は、人生とは明確な差異の認識の扉を開けない相互関連という連続してつながっている一体のものであるという理解にその方向を向けるのである。(Cassirer, 1979) それ故、ジャワ人の思考方法はより宇宙的でありこの世界は、al-dzahir wa al-bathin, al-ghayb wa al-syahadah(心身、不可視の物、可視の物)の性格の形、さらにはal-dunya wa al-akhirah(世界の寿命とあの世)の経験を伴う認識の一体化としての無傷で統一されたものとして見られる。Syekh Siti Jenarの概念ではこの件はnang kene ro nang kono, padha ae (あちらもこちらも同じである)と理解されるのである。

     これらすべてがジャワイスラムの特徴である考え方に導くのである。ゆえに、その理解は信仰の経験の結果であり、基礎を伴わない投機的なものではないのである。真実の理解とはal-kasyf、魂の衣服の全てを脱ぎ捨てることでアッラーの慈光を浴びて直接的な理解を得ること、を通じて得られるものである。Ibn Arabiは上記の事柄から得られるものは知識と真理であると述べている。最初のことはしばしば霊的認識として理解されている神の知識を指し示し、二番目は非心理的な訓練を通じてのみ得ることができる「直接の知識」として理解されるものであり、それゆえ彼は神によって開かれた扉にすすむのである。(Chittick, 2001)


    南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (45)

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       上記の政策実施を比較してみると、最初の概念はジャワ人の考え方の主流でないことがわかる。それゆえ、政治的観点を除外すると、ジャワ人は論理より感情を優先させている社会を形成しているのであることが見える。心の奥にある温和さと尊厳の観点が、実行する比較検討と措置ごとに、さらにはこの問題が非常に広い観点に抵触するときは支配的になる。<78>既に存在する各々の現象において完成した知識と理解の段階に達するために、知恵と善悪の判断のやくわりは極めて限定的である。それゆえ、ジャワ人にとって可視の現象に対して、繊細な感覚を通じてのみ得られるより広く正しく大きな不可視の本質を知ることなのである。イスラム神秘主義者の眼鏡を通してみると、この件は、al-lathifah al insaniyyah、霊と魂を優先させることで心の目で見る練習を通じて真理にたどり着くという考え方なのである。それ故に、智慧の知識によるものは「神秘的」と名付けられるのであり、ジャワ人にとって、上記の「神秘的」と呼ばれるものは五感で感じられる世界と反対に現実なのである。さらに上記の現実の世界を貫通するものは次のどちらか一方である。一つ目は慣習儀礼や行為を行うことを通じて心眼を磨くこと、あるいはずっと以前においてこられた強制的な方法であり、ゆえに彼は不可視の状態に入り、この世で生きているときにはそれを理解するのである。


      南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (44)

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          Ratu(女王)という語そのものは超能力の要素を意味するtuとその前の聖を指し示す接頭語のraから成立している。この語からkeratuanと同じ意味を持つkeraton(王宮)が派生した。このメスニズムをベースとして、ジャワの口語のratuはdatu意味と同源であり、同様にして、王宮(keratin)の最も高位な場所を指し示すkedatonという語が派生したのである。このRatu-datuという語は後日サンスクリット語に変わり、同様にジャワ碑文に利用されたのであった。後世になって、ratuの語の前に聖を意味するsangあるいはsang sriが置かれるようになった。(Yamin, 1962)

         続けると、南海の女王の概念は、魂の主であるとする以外にジャワ西部の地域(Sigaluh王国=現在のMegelang, Purwokerto, Tasikを地域をカバーしていた)の祖先であるというものであった。このような推論は、上記の地域から人材と政治経済、文化的な源を呼び寄せるためのPenenbahan Senopatiの戦略の一部を構成していたと思われる。このことは、Pajang王朝に対立し、マタラム王朝を創建した時のKedu(Magelang県)からKi Bocarや超能力者の存在に象徴される。上記のPenembahan SenopatiとKi Juru Mertaniの戦略は、「実」に重きを置いたSultan PajangにおけるSunan GiriによるSultan Pajang政策時期と、Panembahan Senopatiが採用した「入れ物」重視と対照される。


        南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (43)

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           上記に示したいくつかの現実は、古代の概念は南の方角に特別な印象を与えているという理解を我々に与えるのである。このことは、南海の女王を含む常識が古代マタラム時代にはすでにあったということを明確に示している。Demak王国時代でも、彼らの祖先がアジア大陸あるいは北方から来たということを指し示すRatu Sabrang Lor (Ratu Lasem)のみならずPangeran Sabrang Lorという呼び名があったのである。

           MT. Arifin(2008)によると、後日発生したものは、新マタラム時代において政治的性格を有する権力という重要性を構築することへと霊界が現実化することから、権力を伴った南海の女王に関する概念に移動と変化があったのである。南海の女王に対するマタラム王の信仰は、南海の女王が古代マタラム時代以来続いてきた霊界の王国と政治的概念を統合したものであるゆえに、より現実的な権力である王の地位と治世を強化するための政治的な重要ポイントになったのだった。


          南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (42)

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             実は、ジャワ社会の文化の宝庫の中で、昔から南の方角を尊び、南の方向に都をおくという伝統がある。例えば一番目の背景から高級官僚の官舎を南に配置することである。(一般的には事務所は官舎との間にある宮廷前広場の北側にある。)ジャワ人にとって南の方角は政治社会的と神秘的地理的に尊重される方位なのである。この慣習は少なくとも10世紀のKediri王国の時代には既に存在した。Kakaawin Sumanasantakaに戻ってみると、duwan(黎明?)と呼ばれるその地方で尊敬されている支配者や前述の支配者たちは市場か大広場の南側にいる。それゆえ、古代ジャワ時代以来、高級官僚と最高位の支配者の官舎を王宮前広場、あるいはそれに次ぐ社会的に重要な行動をとる場所の南側に配置しようとする考えがある。(Sedyawati, 1983/1984)

             第二の背景、古代の地政学的観点に立つと、中華帝国のような大国はベトナムを除く東南アジア諸国の地域を纏めて「南洋」として見ていた。(Reid, 1992) 本件は、たしかに東南アジアは中国の南に位置することからだけではなく、特別に南方地域に手を伸ばすことができるために種々の大きな競争相手の存在という神秘的な印象を有している。その一生を決めるしばしば神秘的観点と比較される古代中国の思考において、「南洋」という語は、上記の地域がその行程が困難で最高に難しく、周到な準備が必要で最適な能力をもって進まなくてはならない大洋を越えて達することができるという意味を含んでいるのみではない。上記の印象で、第一に中華帝国である北方の大国はジャワへの想像はますます深まるのであった。それ故に、KediriとSingosari王国時代以降、政治経済のみならずいろいろな文化的影響を産んだPemalayu遠征が誕生したのである。


            南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (41)

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              この自然との共生の概念において、ジャワ人は登記図に関してkeblat papat lima pancer[1]を信じている。Kasusunan Surakarta出身のRM. Riya Yasadipuraによると(MT. Arifin, 2008)、マタラム王宮は四方向から霊力で守られており、(1)東はSunan Lawu Sepuh, Sudan Lawu BagusとLawu山のSunan Lawu Anem、(2)南はParangkusumaのKencanasari女王とKahyangan DlepiのKyai UdanonggaあるいはWidadongga(男女ではない)、Goa (洞窟) KalakのKencanawungu女王、(3)西はMerapi山のSekar KedhatonとKyai Sapu Jagad、Kyai Sapu Regol、北はAalas KrendhawahanaのBethari Kalayuwati女王と(しばしばPelabuhan RatuのTirthadasarに行く)とPenguungan(山地) Kendengで、Alas RobanのPangeran Sigasariとジャワ海のKyai Prabayasaから構成されている。

              ジョグジャカルタ・サルタン国は宮殿の守護についてこれとはやや異なる信仰を持っている。南は南海の女王、西はKahyangan DlepihのSang Hyang Pramoni、北はDewi Sekar KedhatonとMerapi山のKyia Sapu Jagad、東はLawu山のSunan Lawuに守られているのである。(Triyoga, 1991)

               

              [1] “Sedulur papat limo pancer”ともいい、東西南北に位置する四人の兄弟(大宇宙)とその中心にいる自分(小宇宙)を意味している。これはイスラム伝播以前からある考え方。


              南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (40)

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                第六節 なぜ南海の女王でなくてはならないのか

                 

                 今に至るまで、南海の女王は南海だけの支配者であるという一般的な理解がある。これ以外にもこの都と政治の中心地は海の中、Kang kekutha neng jeladri (Babad Sultan Agung, 1980)や、ngedhaton ing dasaring seganten kidul (Hadiwodjoj, 1981)に存在するという一般的な理解が存在する。他方、この本の中でより詳しい解説がみられるのではあるが、ジャワ人の理解では、干満の影響とsegara sewu 帝国(これが王国の正式名称)の発展により南海の女王の支配は南海すなわちインド洋のみならず政治の中心地も常に移動しているのである。

                 従って、この南海の女王の存在に関する問題で、世界の終焉まで終わらない反論が出てくるのは確実である。このところ、海神祭りなど、南海だけに焦点を合わせた点に注目し北の海(ジャワ海)での行為平衡を取らない人が存在する。より詳しくはHadiwidjojo (1918: 52-53)によるとも今の神秘主義者たちは、ジャワ人たちは南海の女王を、海を代表する自然の女神が具現化したものである自然界の支配の象徴として信じられている。他方、Suna Lawu, Ratu Sekar Kedhaton, Kyai Sapu Jagatは山の神であり、Bethari Durgaは森の神とされている。

                 南海の女王の宮殿はジャワのどこにあるかという地域的な意見に関連した南海の女王の存在は、海洋地区を彼女が支配できるようになりかつ繁栄した場合には確実に大きな問題になるという別な分析がある。(Setiadi, Hadi とTrihandayani, 2001) Lombardは南海に対する信仰は、南海が人間の場所ではないという意見故に打ち立てられたと述べている。<75>上に述べた数々の解釈は、決定的に暫定的な性質を持つ政治に関する自然のつり合いの表象に立脚するものであり、その重要性から分離されていないと述べている。


                南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (39)

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                  BantulのPleret[1]に住んでいる神秘主義者も「南海の女王は悪魔でも幽霊でもなく、ヒンドゥー教の神であるdewa(正しく言うとdewi)である」と言っている。彼女はMangayu Hyning Bawanaすなわち国々を統一する(世界の平和を守護し世界を平和にする)ことに尽力しているのである。南海の女王に対するジャワ人の観点は事実上、ジャワの王に対する彼らの観点すなわち世界に対して権力を持つアッラーの代理人であるということである。<73>この形の差異は、すなわち見ることができるジャワの王と肉眼では見ることができない霊的な性格を有する不可視の南海の女王にあるのである。南海の女王の権力が具現化されたものは、南海の荒れ狂う波、多数の人たちが南海に消えたこと、強風、その他の自然災害である。上記の事件は、人々の安全と平穏維持しようとする海の支配者への供物の奉納という方法を持つがゆえに、供物の奉納という手段で制御できるのである。ジャワ人の確信によると、この世界における山や海、森、洞窟その他の聖地は供物を奉納しなくてはならない場所なのである。この世界で生きる上で、この人生が安全で平穏に保たれるように我々の身の回りにある自然界に住むことを通じて知らなくてはならないのである。供物の奉納を行うことで彼らを理解できるのなら彼らも、我々の安全を守るという方法で我々を守ってくれるのは当然である。

                  サルタンが支配したり、高度な超能力の源を利用する能力は、上記の危険を持つ柱の一つであることによると、信仰への証明に対する第一の要求の一つになっている。その超能力とアッラーとの特別な関係の故に彼はこれを行うことができるのである。それゆえ、自分自身や他人を危険にさらすことなくこの「先祖からの遺産」と大衆との間の超能力の深淵を制御できるのである。このようにして、この対象物の超能力のみならず南海の女王も含めて、悪事ではなく建設的な目的に使用されている。確かに、サルタンは王国のすべての超能力の源を支配しているわけではない。個人の所有にかかるこの「遺産」はまだたくさん存在し、これ以外にも苦行を通じて開発することができる超能力もある。サルタンの義務の一つに悪と戦い、魔術師や悪人に使われてはならない超能力の利用がある。この状況を達成するためにサルタンは、不完全な方法で運用すると大きな危険を招く南海の女王のような超能力の源を利用しなければならない。サルタンが超能力を利用することは神の宣託ゆえに一般人の利用の間に大きな差異がある。<74>この件は、サルタンは一般人よりずっと大きく超能力の源を開くことを可能ならしめ、道徳的な目的と社会的に有益なプロセスに向かわせるための知識を与えるものである。

                   

                  [1] ジョグジャカルタの南東部の町


                  南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (38)

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                     理解による不道徳的な超能力は良くないばかりではなく悪辣である。ジャワ人の大多数は簡潔な自然の権力であるとしてかたく信じている。<72>超能力のさまざまに変化した方法は善行のためのみならず悪事にも使うことができる。それゆえ、超能力の利用に対する道徳的評価は、その目的とそれを使うことが許された人の道徳的観点に基づかなくてはならない。さらに、心身が礼拝や肉体的訓練、瞑想に対して十分なる耐力がない場合には超能力の獲得は極めて有用ではあるが、十分に存在すると病気や精神異常に影響する可能性がある。例えば、サルタン以外にそれを使おうとする誰にでも危険をもたらす可能性がある強力な多数の遺産であると信じられている。その遺産を扱う宮廷の官吏たちといえども、これに畏敬の念を抱いている。サルタンの近衛部隊員は、彼が捧げる槍は超能力があり、しばしば飛ぼうとしていると述べている。その儀式の数日前から彼が断食も瞑想もしない場合には、その槍が手から離れ他人を殺すかもしれないと心配している。

                     ジャワ人によれば、南海の女王(Kanjeng Ratu Kidul)は南海の霊的存在を配下にして支配している神の代理人としてとえられているから、彼女の権力は絶対的である。それゆえ、恩恵を求めたりその人の人生における安全を願うべく多数の人たちが南海岸にやってくるのである。Pemancingan Segara Kidulの番人ははっきりとこう述べている。(Twikromo, 2006)

                    その代理人がいる国家元首の場合と同様に、神にも代理人がいる。神にも南海とジャワの土地を平穏に保つための代理人、南海の女王、がいるのである。神に対して何かをお願いする時にはParangkusumoで南海の女王を通じて行わなければならない。そのお願いがこのルートを通じる場合には必ず聞きどけられる。


                    南海冥府の女王 第二章 ジャワイスラム神秘主義と南海冥府の女王 (37)

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                       南海の女王はサルタンに付与された超能力の源の一つであることを構成している。しかし、彼女も非常に危険である。彼女は定期的に人身御供を要求しスラカルタとジョグジャカルタの王宮の近くに住む人たちをさらうことが報告されている。彼らは南海の宮廷の使用人として連れていかれるのである。その軍人の数人はしばしば病気の原因となったり、南海の宮廷に付近に入った漁船を破壊したり、Parangtritis近くの水域に入ろうとする誰をも走らせるのである。サルタンと南海の女王の結婚は喜ばしい話の一つである。宮廷と関連する伝統儀式は霊に対する崇拝や祈祷に基づくものではなく強力な契約関係によるものである。サルタンはその権力と霊界の軍隊を必要としているが、支配するための自分の権力への脅しと与えられたものを束にしてまとめなくてはならないのである。

                       幾人かの超能力者や神秘主義者が南海の女王と話したことがあり、この話を物語ることができるとはいえ、大多数のジャワ人たちは南海の女王の本質が非常に悪辣であると信じている。この理由により彼らは、彼女と結婚したあるいはその反対であると主張する超能力者や神秘主義者が見つけだした必要な要求事項を理解するのが困難である。スポークスマンはこのような話の正確さは信じるに困難であるが、ここに別な角度から見ると南海の女王は自分に関する嘘の話を広めた誰でもを殺す可能性があると説明している。このような話が出るのは大部分のジャワ人(大衆)が南海の女王(Kanjeng Ratu Kidul)と南海冥府の女王(Nyai Rara Kidul)とを違いに理解不十分であることに起因しているために過ぎない。


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